切り取ってよ、一瞬の光を

エンターテイメントの話

V6担兼NEWS担の友人とサブカルになりそこねた私の10年

親愛なる友人Sへ――

 

あなたと出会って、早いもので11年目になります。大学で同じクラスだったあなたと仲良くなり、あなたがジャニヲタであると知るのにさほど時間はかかりませんでした。2文ですでにだいたいの歳がばれてしまいましたが、あなたは中学生の頃からのV6三宅健さんファンであり、出会った頃にはすでにNEWS手越祐也さんのファンでもあったと思います。

私にとってV6は「学校へ行こう」でなじみのあるジャニーズでしたが、飛ぶ鳥を落とす勢いだった嵐に比べると、やや旬の過ぎたグループという印象でした。NEWSに至っては、山Pこと山下智久さん率いる大勢の男性たちという認識でしかありませんでした。正直なところ、ジャニーズはチャラチャラ歌い踊るイケメンの集団で、ティーンの女子がはしかのように熱を上げる対象であり、大人のジャニヲタは虚構の夢から醒めていない人種だと思っていました。大変失礼な話です。「他人のアイドルを笑うな!」と叫びながら自分をビンタしてやりたいくらいです。しかし大学生の私は、約10年後の自分が、好きなジャニーズアイドルが番組で着ていた衣装とほぼ同じくまのTシャツ*1を購入するなど、微塵も想像していませんでした。

これはジャニヲタのあなたと友達になってから、私がジャニヲタになるまでの思い出話です。長くなりますがお付き合いください。

 

あなたは私が人生で初めて出会ったガチのジャニヲタでした。同じコミュニティにジャニヲタがいなかったため、あなたはご家族やジャニヲタ友達とコンサート等に行っていたと記憶しています。ふわふわしておおらかな印象だったあなたが、何かのチケットの一般発売のために、恐ろしい集中力と指さばきで電話をかけまくる姿や、運動が苦手だというあなたが、何かのコンサート遠征のために、話しかけるのをためらうほどに新幹線ホームを全力ダッシュする姿を見て、なんだかジャニヲタはやばいなと思っていました。

ジャニヲタはやばいなエピソードの最たるものが、V6のコンサートと沖縄旅行の日程がバッティングした事件です。既に1公演は当選しているにもかかわらず、「その日V6当たったらそっち行くから」とあなたが言い放った時のショックは今でも忘れられません。私と友人は説得を試みましたが、あなたの決意は揺らぎませんでした。アイドルのコンサート>>>>>>我々の友情だったのです。結局あなたは落選して旅行に行くことになりましたが、ジャニヲタの異常な熱量と非情なリアリストぶりを垣間見た気がしました。

 

今思えば、私にも何度かジャニヲタへの分岐点がありました。その一つがドラマ、タイガー&ドラゴンです。私はセンターパートの細身な美青年だった岡田准一さんに目を奪われました。しばらくの期間、岡田くんが出ている番組は録画して見る等、彼に淡い好意を抱いていました。岡田くん、かっこいい。私の発言を受けたあなたは喜々として私を勧誘しました。しかし、私は明確な意志をもって断りました。ジャニヲタはなんだかやばいと思っていたからです。その沼の深さを本能的に察知し、脳が警鐘を鳴らしていたのかもしれません。そして私はもう一方の道を選び、同ドラマの主題歌を歌っていたクレイジーケンバンドのファンになりました。

 

山に囲まれたカルチャー不毛の地から関西に出てきた私にとって、大学の友人たちは博学で高度に文化的でした。サザンオールスターズMr.Childrenのファンだった私は、彼女らの影響を受け、いわゆるサブカルチャーに傾倒していきます。サブカルの定義については諸説あると思いますが、ややマイナーかつ知っていることにより若干の優越感にも似た自己満足を得られる趣味のジャンル及びその嗜好を指して、便宜的にサブカルという言葉を使用します。*2

私はくるり電気グルーヴを聞き、ラーメンズのライブに行き、攻殻機動隊を見て、FUDGEやダ・ヴィンチを読んでいました。好きな俳優は加瀬亮さんでした。こうして私はスーパーノヴァといえばワールズエンド、仁といえば片桐、亮といえば加瀬、草なぎといえば素子、タキといえば瀧*3といった嗜好を持つようになりました。

しかし音楽を例に出せば、NUMBERGIRLSUPERCARSAKEROCK筋肉少女帯もよく知りません。椎名林檎さんは好きですが戸川純さんは聞いていません。サウスパークは好きですがモンティ・パイソンは見ていません。たとえるなら、ジャニヲタを名乗りながら「アンダルシアに憧れて」や「愛のかたまり」を知らないといったところでしょうか。私が好きなサブカルはサブカルの中でも比較的メジャーな存在でしたが、それらに満足していたので、サブカルを体系だてて学ぶことや、未知のアーティストなどを知ることにはあまり気が進みませんでした。澁澤龍彦大塚英志を愛読し、土方巽暗黒舞踏を熱く語り、好きな映画にトレイン・スポッティングやヴァージン・スーサイズを挙げるような友人と比較すると、私はサブカルの浅瀬でチャプチャプと戯れているにすぎませんでした。

やがてサブカルに対する興味より義務感と劣等感が増大し、広く深くサブカルを知ろうとしない自分を恥じるようになります。サブカルは文化の分野ですが、面倒な自意識と親和性の高い概念でもあります。臆病な自尊心ゆえにサブカルの道に進んだ私は、尊大な羞恥心のせいでサブカルに敗北することとなりました。*4ナタリーさえチェックしていない私はサブカル女などではなく、ただの面倒な女でした。

 

面倒な女は、次第にPerfumeきゃりーぱみゅぱみゅ等、アイドル性のあるアーティストを好きになり、ももいろクローバーにたどり着きます。彼女らに心酔する一方で、ある疑念が膨らんでいきます。この「好き」はファッションではないのか?「かせきさいだぁが曲を提供してるからでんぱ組.incを聴いてみたんだけど、結構クセになるね」といったサブカルありきのアイドル好きというファッションではないのか?

私は再びアイデンティティクライシスに陥ります、永遠に出られない暗闇のラビリンス*5に迷い込んだのです。思い悩んだ結果、私が本当に好きなのはサブカルでもアイドルでもなく、クレイジーケンバンド2ちゃんねるまとめだという結論に至りました。私のメンタリティーはヨコハマのオヤジであり、ミーハーなおたくだったのです。

 

あなたとの思い出に話を戻しましょう。

就職に伴い、大学の友人たちは全国に散りました。離れてもSNS等で交流がありましたが、久しぶりに共通の友人の結婚式で再会します。あなたは顔を合わせるなり、重大な秘密を告白するような面持ちで口を開きました。

「この前、健くんと電話してん」

当時ジャニーズを騙る迷惑メールが流行していたこともあり、すぐさま「詐欺」の二文字が私と友人の頭をよぎりましたが、よくよく話を聞くと、健くんのラジオに投稿した質問が採用されたのことでした。我々は、ネタ的な面白さを感じながら、すごい!良かったね!と騒ぎました。しかし、オンエアを聞いた私は、少し違った感想を抱きます。

健くんと会話するあなたは、緊張していたのか、耳慣れた京都弁がうわずっているように思えました。そして電話の終わり際に、駆け込むように、ずっとファンであること、ライブに行くこと、これからも応援することを健くんに伝えました。そのトーンに、長年想いを寄せていた人に告白するような切実さを感じ、私は胸がいっぱいになりました。想像していた以上に、あなたにとってアイドルが大切な存在なのだと気づきました。

 

2013年7月、かの「パーナさん事件」が起こります。NEWSの野外コンサートが悪天候で中止・順延になり、多数の体調不良者と宿泊難民が出ました。真偽不明なツイートが拡散され、デマに翻弄されるジャニヲタ=短絡的で自己中心的な情報弱者というイメージは、常にハイエナのように批判の対象を求めているインターネットの格好の餌食となりました。「レイプ車がパーナさんを狙っている」等の破壊力のあるフレーズを笑って見ていた私ですが、あなたもこのコンサートに参加していたことを知ります。聡明で大人なあなたは、隣に座っていた女子高生を助けたのち、颯爽と会場を後にして飲みながらこの騒動をネットで傍観し、翌日の振替公演に参加したとのことでした。私にとってパーナさん事件は他人事でした。のちに私がファンになる関ジャニ∞も、悪天候や体調不良等のアクシデントに見舞われます。私はジャニヲタになり、喜び悲しみ受け入れて生きる*6ことを学ぶのです。

 

結婚・出産を経て、育児に疲れた私は、憂さ晴らしに純度100%の愉快さを求めはじめます。折しもデビュー10周年を迎えた関ジャニ∞をテレビで目にする機会が増え、彼らのバラエティスキルの高さと楽曲のキャッチーさなどに、だんだんと好感を抱くようになります。年末、ジャニーズカウントダウンを心待ちにしていた私は、この年に限ってテレビ放送がないことを知り、それはそれは落胆し、カウコンに参加するあなたを羨みました。しかしいざ蓋を開けてみると、実質マッチこと近藤真彦さんのソロコンというジャニーズ史に残る伝説のカウコンでした。自担の活躍を楽しみにはるばる東京まで遠征した結果、マッチソロコンで年を越したあなたの心境を思うと、胸が痛みます。

さて、育児中で可処分時間の少ない私はしばらく茶の間ファンを続けますが、ジャニーズについてつぶやくごとに、あなたから「ファンクラブへの入り方を教えようか?」「沼の底で待ってるよ」等とリプライがありました。それらがボディーブローのように効いていたのか、私はテレビでは飽き足らず、関ジャニ∞のCDやDVDを購入し、過去の作品を漁り、メンバーの個性や関係性を学習し、情報収集のためTwitterでジャニーズアカウントを作成します。さらに、岡田くんがHey!Say!JUMPの伊野尾慧さんを「発見」*7したのと時を同じくして、私はサブカルホイホイとでもいうべき伊野尾くんのスペックとビジュアルに転げ落ちていきます。タイガー&ドラゴンの時とは異なり、私は積極的にあなたに教えを乞い、ついに関ジャニ∞とHey!Say!JUMPのファンクラブに入会します。あなたと出会ってから9年が経っていました。

いま振り返ると、ジャニーズはサブリミナルのごとく生活のあちこちに潜んでいました。たまたま録画していた歌番組を再生すると、ハマる前の自担Gが出ていた。そういえばさまぁ~ずの三村さんが「キング・オブ・男!」が衝撃的だという話をしていた。何かにハマることを「沼」といいますが、これまで自分が沼の上に張った薄氷を歩いていたことに気付きます。どうしてもっと早く関心を持たなかったのかと後悔すると同時に、よくもまあ今まで落ちずに生きてこれたものだと思いました。

これを読んでいる非ジャニヲタの方も他人事ではありません。いつ、だれに、何のきっかけで足を滑らせるかわかないのです。「まさか、私が……ジャニーズなどに……」と滅ぼされる間際の魔王のようなセリフを吐きながら沼に沈んでいった人を何人も見ました。今は私を含め、みな沼の底で恍惚の表情を浮かべながらジャニーズを愛でています。はしかは、大人になってからかかる方が重症なのです。

 

2016年、ついに私はHey!Say!JUMPのコンサートに参加する権利を得ます。あなたにコンサートの心得を問うたところ、ずらりと長文で十か条の返信があり、年季の入ったジャニヲタを友に持ったことを心強く思いました。その中に、「コール&レスポンスがある歌は練習しておいた方がいい」という教えがありました。そして当日、ファンの圧倒的な若さに気後れしながらも、私は勇気を出して声を上げます。 

\ゴシゴシ私はスポンジで~す!!!!/*8

 その瞬間、自分の中で新しい扉が開いたのを感じました。日常のしがらみから解放され、魂が浄化される思いでした。それはまるで通過儀礼でした。ついに私は身も心もジャニヲタになったのです。

 

私がジャニーズの何に魅力を感じているのか考えてみました。おたくは息をするように、軽率に「尊い」と言いますが、実際にアイドルは尊いのです。外見やスキルが優れていることはもとより、ファンへの向き合い方、趣味嗜好、バックグラウンドや信条、経験に裏打ちされた自信、幾分かの自己犠牲とプロフェッショナリズム、時折見せる隙ですら、彼らを魅力的にみせます。さらに、ただでさえ魅力的な人が集まって、仲の良さや、少しの気まずさが、化学反応のようにいっそう魅力的で物語性のある関係を作っています。個の力が相乗効果で際限なく増幅して、圧倒的なキラキラの渦を生み出しているようです。そして、様々な分野に挑戦し、吸収・消化して、想像と期待を上回るアウトプットで返してくる姿や、時に理不尽な試練や困難に阻まれても、逃げずに克服する姿には胸を打たれ、自分を奮い立たせる勇気をもらえます。なにより、彼らがそのまたとない命を燃やし輝く様を、余すところなく見せてくれる存在であることが、奇跡的であり、眩しくて直視できないくらいに尊いのです。

 

また、ジャニーズはファンのスタンスが様々だと思います。デビュー組からJr.まで幅広くカバーする事務所担もいれば、デビュー前から関ジャニ∞のファンだけど他のグループはよく知らないという人もいます。疑似恋愛の対象として好きな人もいれば、音楽面が好きで楽曲の分析をしたりコピーをしたりする人もいます。そしてジャニーズの皆さんは、追いきれないほど多種多様かつ大量にメディアに露出しています。サブカルに挫折した私ですが、歳をとって「好き」のコントロールができるようになったのか、家庭や仕事でリソースが限られていることが逆に幸いしているのか、マイペースで応援できています。「好き」のあり方は自由でいいんだということを学びました。

さらに、前述のように、テレビだけでも相当な頻度で彼らを目にします。旅行だとか長期休暇だとか、相当先の大きな楽しみを生きがいに必死にウィークデイをやり過ごしていたこれまでを遠泳だとすれば、今はテレビや雑誌などの小さな楽しみを飛び石のようにポンポンと渡っていると、いつの間にか新曲の発売やコンサートといった大きなイベントに行きつくような感じがしています。ジャニヲタになって毎日が楽しいです。

 

あなたが自身のブログ*9で書かれているとおり、あなたの結婚式はジャニヲタならではの趣向が凝らしてあり、ジャニヲタ人生の集大成だったのではないかと思います。ケーキ入刀のタイミングでV6のDarlingが流れた時は、あまりの潔さに友人たちと爆笑してしまいました。ストイックに「好き」を貫いた清々しさと多幸感がありました。

時系列が前後しますが、2015年、V6は20周年イヤーであり、歌番組で彼らを目にする機会が多くありました。時を経て、岡田くんは可愛い後輩の尻を乱獲する屈強な師範になりました。不思議と健くんはビジュアル的に変わりありませんでした。そして私は驚くべきことに気付きます。うたをうたお……飛び乗ろうよハニービー……ほとんど知ってる!歌える!!大学時代、暇さえあればカラオケに通っていました。そしていつの間にかあなたが歌うV6を刷り込まれていたのでした。V6は私にとっても青春の記憶装置だったのです。

病めるときも健やかなるときも、あなたのそばにはジャニーズがいました。一方私はというと、その時々に好きだったサブカル的なものには思い出が刻み込まれているし、継続して好きなものはたくさんあります。今もSuchmosを聞きながらこれを書いていますから、持続可能な程度に、ポップでミーハーなサブカル活動を続けているといえます。しかしあなたほどに長い期間、一定の熱量を保ちながらひとつのグループを追った経験はありません。私はあなたがジャニーズと共に歩んだ半生をとても羨ましく思います。

 

随分と回り道をしましたが、私はあなたと同じジャニヲタになりました。なんの躊躇もなく好きだと公言できるものに出会えました。そして、私がジャニヲタになってコンサート参戦記を書いたことを、あなたは「こんな日がくるなんて、私はなんて幸せな世界に生まれたんだ!」と翻訳文のようにスタイリッシュに喜んでくれました。私はとても良いことをした気になって、チケット代など実質タダだったのではないかと思いました。

あなたと話したいことがたくさんあります。カラオケに行きたいし、鑑賞会もしたいし、人生ゲームもしたい。*10近々、あなたを含む大学の友人たちと久しぶりに旅行に行きますね。ジャニヲタとなった今、沖縄旅行のとき、V6のコンサートが当たっていたらよかったのにと思います。アイドルは年に数回会えるかどうかですが、友達は友達でいる限り、年齢を重ねても、環境が変わっても、どこでだって会えるのですから。

 

10年間友達でいてくれてありがとうございます。これからもよき友であり、ジャニヲタの先輩でいてください。そして願わくばこの先の10年も、あなたの人生がジャニーズの輝きと共にあらんことを祈って、筆を置きます。ありがとうございました。

*1:安田章大さんがトーキョーライブ22時で着ていたJOYRICHのくまTシャツです。

*2:以下、どの趣味も、アーティストも、そのファンも揶揄したり批判したりするつもりがないことをお断りしておきます。これは私と私の自意識の問題なのです。

*3:蛇足ですが、SupernovaはV6の楽曲、赤西仁さん、錦戸亮さん、草なぎ剛さん、タッキーこと滝沢秀明さんを想定しています。

*4:中島敦山月記」より

*5:関ジャニ∞「Black of night」より

*6:Hey!Say!JUMP「Ultra Music Power」より

*7:コロンブスによるアメリカ大陸発見に匹敵するエポックメイキングな出来事だと思っています。

*8:Hey!Say!JUMP伊野尾慧さんと八乙女光さんのユニット曲「今夜貴方を口説きます」より

*9:ジャニオタに優しい結婚式 - ゆめゆめ惑うことばかり。

*10:コマを自作し、自担だらけの人生ゲーム大会を開催された方がいました。

関ジャニ’sエイターテインメント東京・名古屋公演

・前書き

ずっと、ずっと、ブログを書きたいと思っていた。

ジャニヲタのみなさんの異常な文才と愛と知識量で書かれたコンレポや考察ブログに憧れながらも読み専だった私だが、関ジャニ’sエイターテインメント東京・名古屋公演に参加して、この目で見たあまりに眩い光景を記録する必要性に駆られ、キーボードを叩き始めた次第である。

とはいえ、ド新規の初参加であり、さらに音楽もダンスも知識がないため、個人的な思い出の記録や「やばい、しんどい、むり、すき」等の単純な感想である。そう、関ジャニ∞は初めてなの。今まで黙っていてごめんなさい。ツイッターでは知った顔でやいやい騒いでいたくせに、この歳で初めてなんて恥ずかしくて言えなくて。いや、逃げ恥の話ではない。ジャニーズのコンサートの話だ。

以下、東京公演を中心としながら、ぼっち参戦した名古屋では幸運にもバックステージ付近のアリーナ席に入ることができたため、同公演の感想も盛り込みつつ記載したい。

・東京公演、開演前の記録

ここ数年、関ジャニはその年に発表したアルバムをひっさげた五大ドームツアーを冬の定番としていたが、今回の関ジャニ’sエイターテインメントはアルバムなしのツアーである。例年のツアーを出題範囲が推定しやすい定期テストだとするなら、これは完全な実力テスト、いや、新規にとってはさながら駿台模試である。私はツイッターに張り付いて札幌公演のレポをあさり、セトリやコーナー編成を頭に叩き込み、万全の態勢で臨むことにした。

東京公演においては、私の初ジャニコンとなった今秋のHey!Say!JUMPのDEAR横アリ公演同様、宝塚歌劇団を専門としている友人に同行してもらった。彼女はあらゆるオタクたちの約束の地・池袋パセラ本店で私とジャニーズDVDを鑑賞し、セトリのプレイリストを作って聞いてくれるありがたい存在であり、関ジャニでいえば、丸ちゃんこと丸山隆平さんが気になっているとのことであった。

初心者の我々だが、服装については年季の入ったジャニヲタの友人のアドバイスを受け、控えめながら好きなメンバーの色を取り入れた。友人はオレンジのパンツを履き、私はヤスくんこと安田章大さんのメンバーカラーである青色のスカーフを首に巻いた。いい歳して正気か、それにスカーフなど完全に「おしゃれ」ではないかーーもう一人の自分が何度も脳内で囁いたが、これは気後れしないための鎧であると位置づけ、厄介な自意識を屈服させることに成功した。実際会場では随分と控えめな方であった。

さて、友人とグッズ列に並ぶこと数十分、気づいた時には二人とも、たこ焼き棒(ペンライト)とうちわとパンフレットとフォトセットを詰め込んだたこ焼きバッグを手にしていた。JUMPコンでは時間がなく叶わなかったため、ジャニーズのグッズを購入したのは初めてだった。後悔はないが、なにか一線を越えてしまった気がした。同様に友人もソワソワしており、耐えられない、どこかでお酒を飲みたい、と言い出した。

乱れた呼吸と体制を整えるため、我々はファンであふれかえるカフェに入った。おもむろにバッグを開くと、銀髪のヤスくんがこちらを見ている。え、大きい。そう、ジャニーズのうちわは大きいのだ。彼の屈託のない笑顔が直視できなくて、はにかみながら眼をそらした。フォトセットは慎重に開封し確認したのち、あたかも卑猥な印刷物を扱うかのように、素早くカバンの奥底にしまった。うちわや写真ですらこんな有様なのだから、実物を目にしたらどうかしてしまうのではないかと思った。何もかも刺激が強すぎた。

余談だが、この数時間前に私は家族で保育園のバザーに参加しており、双眼鏡をカバンに忍ばせながら、何食わぬ顔でママ友や先生と話をしていた。わが子を抱いていた手は今、たこ焼き棒を握りしめている。日常と地続きだった世界が、今宵、一枚のチケットによって色を変える。時は満ちた。期待と戸惑いと興奮が入り混じる曖昧な笑みを浮かべ、我々はドームの回転扉へと向かった。

・公演の記録ーセトリを中心に

東京ドームの内部は、徐々に高まる興奮と熱気で薄く霞がかったようで、スタンド下段から見下ろす360度円形ステージは、静かにその時を待っていた。

やがて、オープニング映像が始まる。次々と登場する反社会的勢力に扮したメンバーに、あちこちで悲鳴にも似た黄色い声が上がる。こわい、最初からクライマックスだ、完全に仕留めにかかってきている。私がオールバックに銀縁メガネの横山くんに魂を抜かれていた一方、友人は茶髪ゆるパーマにスーツの大倉くんに心を奪われていた。自担だけに気を付けていればいいというわけではない。全員が特A級のアイドルなのだ。早くも許容量を超えるかっこよさを摂取してしまった私は、気を抜けば奇声を発しそうになる唇を固く結び、奥歯をぐっと噛みしめた。まだ本人たちは出ていないというのにだ。

・NOROSHI~浮世踊リビト

映像の世界観そのままに、バックステージ下からヒョウ柄のロングコートに赤スーツの関ジャニが登場し、歌いながら場内を練り歩く。ありきたりだが、彼らが実在の人物であったことに驚く。なお名古屋では亮ちゃんと大倉くんが薄い色つきの丸サングラスをかけており、るろうに剣心により諸々の嗜好(性癖ともいう)を育んだ世代の網膜を焼いた。

「なんどめだ ブリュレ」と評されることのあるブリュレも、私にとっては過去の映像で見たダンスが実際に拝めるのがありがたかった。文句なしにかっこいいのだが、「高速回転寿司」の前触れのとおり、イケメンたちを乗せたセンターステージ外周がありえないスピードで回る様は、つかの間の癒しともいうべき笑いを我々にもたらした。RAGE及び浮世踊リビトではメンバーがトロッコに乗ってアリーナを回る。名古屋で間近に見ることができた横山くんは、完全に白く発光していた。

・パノラマ~T.W.L

メンバーあいさつを経て、ポストイットを彷彿とさせる蛍光衣装とオーバーオールに身を包んだ彼らは、キッズダンサーにも遜色ないキュートさを振りまいて歌い踊った。

全体を通して言えることだが、絶対的に目が足りない。あちこちで可愛いやかっこいいの小規模爆発が起こる。双眼鏡でひとりを追っていると、スクリーンに抜かれたメンバーのキメ顔に歓声が上がる。さらに手も足りない。たこ焼き棒を振りたい、うちわも構えたい、双眼鏡も覗きたい。手練れのジャニヲタの方は数枚のうちわを使い分け、自担が出てくる位置に暗転中から双眼鏡を構えていたりした。

さらに「なぜジャニヲタは同じコンサートを何公演も見たがるのか」という問いは、愚問以外のなにものでもないことが身に染みてわかった。なんなら同じ公演だって何回も見たい。

 ・エイトレンジャーコント

エイトレンジャーによるオープニング映像のセルフパロディはまさにお家芸で、モモコからのリンゴというハイヒール天丼は、一部のファンの頭上に「?」を浮かばせながらも、主に西にルーツを持つ人々の爆笑を誘っていた。イリュージョン及びコントにおいては、多ステ勢を飽きさせないすばるくんのアドリブの技、もとい、回を追うごとにエスカレートする下ネタが光っていたと思う。

・王様クリニック~なぐりガキBEAT

夜ふかしでいじられがちなKINGだが、久保田利伸提供のR&Bナンバー・王様クリニックにおいて、紫に染まるペンライトの海を余裕の表情で煽る村上くんはギラギラと輝いており、彼がまごうことなきトップアイドルであることを再認識させられた。脚が長く、身のこなしが軽やかで、鼻濁音が色っぽかった。

続く丸ちゃんとヤスくんのユニット曲The Lightは多幸感あふれる伸びやかなハーモニーとザ・ジャニーズ的な爽やかダンスで魅せ、もう少し尺が長ければ天に召されてしまうところであった。衣装の背中に羽が描かれていたのは、二人が天界の使者であることを表していたのかもしれない。さらに名古屋では、丸ちゃんの耳かけパーマ(エゴサの賜物)から色気がだだもれていたことを付記しておきたい。

罪と夏、がむしゃら行進曲、イッツマイソウルと強いシングルを畳みかける流れでは、十二月の全てを捧げて踊り狂った。横山くんのトランペットソロから始まる新曲のなぐりガキBEATでは、固唾を飲んで見守る他メンとはにかみながらも得意げな横山くんの図が微笑ましく、スカサウンドに乗せた可愛くゆるいダンスとぐうの音も出ない完璧な歌割りでおたくを魅了した。

・MC

東京で印象的だったのは、普段競馬をしないのに去年の有馬記念で競争馬の顔写真(丸ちゃん曰く「馬のアー写」)を見て選び万馬券を当てたヤスくんに対し、「(有馬記念じゃなくて)安田記念ですよ」とかぶせてきたすばるくんは、たまに競馬をするのに唯一当たったことのある馬券が元本割れして千円損したというくだり。名古屋では前日のMステスペシャルで他のアーティストや事務所の先輩後輩と話したと盛り上がる中、「ぼくは関ジャニだけです、友達としか話してません」と静かに言ってのけたすばるくんがたまらなかった。

私が関ジャニを知って驚いたことのひとつに、パブリックイメージでは決してバラエティ班でないすばるくんが、つっこみも小噺もヤジもぼそりとつぶやくひと言も、間の取り方や言葉の選び方が絶妙ですべりしらずだという事実がある。おまけにモノマネも上手いし、下ネタも十八番だし、画伯でもある。初老だって彼の手札のひとつにすぎない。つよい。髪型も爆イケだし顔もかっこいい。当然歌も上手い。つらい。

・アコースティック~言ったじゃないスカ

日替わりローテで曲が披露されるアコースティックでは、期待が高まる中、丸ちゃんの歌いだしでI to Uだと判明した途端の歓声が圧巻だった。ファン人気の高いカップリングの名曲でありながら、私はFIGHTコンのDVDで見た程度で聞き込みが足りなかったことを悔やんだが、七人の温かい演奏とまっすぐな歌声が胸に沁みた。シンプルに歌がうめぇ(千鳥)のである。

言ったじゃないスカは、モニターに抜かれるたびに可愛い表情で決めた挙句、極めつけのウインクでおたくを絶叫させた名古屋のヤスくんに尽きる。オスもショタも自由自在に行き来する彼のパフォーマンスはこちらが照れてしまうほどで、アイドルの中でも心臓の毛ボーボー(©錦戸亮)な安田章大さんでないとできない所業だと思った(褒めています)。

・再びのMC~前向きスクリーム!

映画『破門』について「佐々木蔵之介さんと二宮(横山くんの役名)が……」と話し始めた横山くんに対し、「いや佐々木蔵之介さんと二宮ってなんなん!横山くんはなんなん!」と五万人のモヤりを代弁してつっこんでいた亮ちゃんが安心と信頼の錦戸亮であった。すばるくんによる乳首ビンビンの話も安定感があった。各会場でのMCダイジェストが初回盤DVD特典につくことを当たり前のように受け入れているが、そんなアイドルはごく少数ではないかとふと思った。

横山くんとすばるくんのユニット曲ハダカは、とにかく「乳首出てる」だった。心揺さぶる歌・演奏と変態的な衣装とギャップがすさまじい。特にバッキバキの身体を惜しげもなく晒す横山くんはあきらかにR-指定*1だった。理性と欲望がせめぎ合い、脳内でフリースタイルダンジョンが繰り広げられる。鍛え上げた身体!白いこの肌!From此花*2……理性は欲望のバイブスにあっけなく屈し、私は双眼鏡を構えミスターポポ*3の顔で凝視した。

続くSteal your loveでは、セクシーに歌い踊る亮ちゃんと大倉くんの大正義イケメンに酔いしれ、息つく暇もなく安田総合Pによるハードなダンス曲Black of nightに魅せられる。グループを俯瞰で見て、レーダーチャートの一角を伸ばすように、いま自分たちに必要な曲をプロデュースできる才能。ヤスくん、関ジャニを躍らせてくれてありがとう、かっこいい関ジャニをみせてくれてありがとう。

一転して、キングオブ男・前向きでは「祭り・賑やかしは俺たちに任せろ!」*4とでもいうべき盛り上がりを見せた。いずれも定番曲だが、楽しいものは楽しい。関ジャニのお祭り曲の層の厚さを感じた。

・セッション映像~NOROSHI

会場ごとにご当地ソング等をセッションする七人の映像が流れる。東京でのLOVE YOU ONLY/TOKIOでは、よく訓練されたジャニヲタの合いの手に感心した。名古屋は時期柄、クリスマス・イヴ/山下達郎だった。メインボーカルを務めた丸ちゃんのモノマネ(めちゃくちゃ上手い)に笑いながら演奏する彼らの様子は平和を体現したようで、ジョンの目指した理想がそこにあった。

そして、なんといってもTokyoholicについて語らなければならない。同曲はNOROSHI初回限定版AのDVDに、亮ちゃん主導のインスト曲としてセッション風景が収録されており、コンサートでTokyoをヘイトしたりできなかったりする内容の歌詞付きverが披露されたものである。クレジットされていないものの、村上くんのパートだけ英語詞をカタカナ表記(everyday→エビデイ)していることからして、明らかに作詞者は亮ちゃんだった。彼の作る曲は、多様ながらどれも遊び心がありおしゃれでクールで個性が強く、「私が作りました(満面の笑み)」とラベルが貼られているように思う。対してヤスくんは、タッグを組む作詞者や求められるものに応じて時に個性を消し、職業作家的に楽曲を作る人だと思っている。そんな技術と才能を持った二人が同い年で同じグループにいる奇跡。尊い。

閑話休題。疾走感のあるメロディに乗せた関西弁のロック。彼らの熱気と気概に圧倒され、高揚感に包まれた観客はライブハウスのように拳(といいつつたこ焼き棒なのだが)を突き上げる。つかの間、これがアイドルのコンサートであることを忘れた。「そんな上から見んなこっちも必死なんじゃ」とがなるように歌う亮ちゃんを見て、「NOROSHIのジャケットデザインはスーッとするガムみたい」とぼやいていた私は心の中で土下座した。

コンサートはいよいよ本当のクライマックスを迎える。しかしこの段階においてはかっこよさに滅多打ちにされて記憶がおぼろげであり、象に関しては「オスの安田章大さん」、NOROSHIに関しては「すばるくんのウインク」とうわごとのようにつぶやくことしかできない。NOROSHIに始まりNOROSHIに終わる。まるで格言のようだが、とにかくこの冬は至る所でNOROSHIがぶちあがっていたのである。

・アンコール ズッコケ男道~オモイダマ

とにもかくにもパーカーを着た大倉くんのクズのヒモ感である。先日、「ヒモにしたいジャニーズで打線を組んだ」というブログ記事を拝読し、首がもげるほどうなずいたが、パーカー姿に揺れるピアスの大倉くんはヒモ球界屈指の強肩スラッガーであった。夏頃までの「往年のジェームス・ディーンヘア~新鮮な三陸産のわかめを添えて~」のような髪型は何だったのかと思うくらい、茶色のふわふわパーマはその端正な顔をいっそう魅力的に見せていた。

休日の早朝から「今日新台入んねん」と言われてモヤモヤしながらもスッと三万円を渡したい。疲れ果てた仕事終わりに食材を買ったところで「もう出前館頼んだからメシいらん」というLINEを読んで脱力したい(もちろん私の分の出前はない)。それでもYogiboソファに埋もれて幸せそうに寝る大倉くんを見て「かっこいい……悔しいけどやっぱ好き……」と惚れ直したい。そんな夢小説的な妄想*5をかきたてられた。

アンコールではメンバーが気球に乗り、スタンド席や天井席のファンにも近づいてお手振りのサービスをしてくれる。曲は私ですら(DVDで)既視感のあるラインナップだったが、横山くんがヤスくんとキャッキャしながら楽しそうにしている様が見れて心が満たされた。名古屋ではメンバーカラーのサンタ衣装で登場し、村上くんとヤスくんが律儀にサンタ帽子のあごのゴムをしていることに気付いて萌え転げた。また、丸担の方々が花道を通る丸ちゃんのファンサに被弾して感激のあまり次々と崩れ落ちる様を目の当たりにして、「アイドル=キリスト教の聖人」という自説に確信を持った。最後はオモイダマで軽めに締めて終了。名古屋では前日のMステスペシャルを受けて亮ちゃんが観客にXジャンプを促し、ヤスくんが原曲キーで紅を歌った。ハケ際までサービスと笑いの行き届いたコンサートであった。

 

・公演後の記録と総括

致死量のNOROSHIを吸引した私と友人は語彙力を失い、「よかった」「ちくび」「のろし」等のシンプルな単語をつぶやきながら、夢遊病者のように駅への道のりを歩いた。友人は「オープニングムービーの大倉くんがかっこよかった」と二回こぼし、さらにツイッターでも「あのビジュアルの破壊力で飯十杯くらいいけそう」とつぶやいていたので、よほどの衝撃だったと思われる。私は歯を食いしばっていたせいで、あごが硬めのスルメを食べた後のように疲れていた。好きとかっこいいが飽和するとあごが疲れるのだと知った。そして夫と子ども(就寝済)が待つ自宅へと帰り、ヤスくんのうちわをそっと押入れにしまった。襖を開けばヤスくんが微笑んでいる。偶像崇拝の許されている世界に生きていてよかった。明日から色々と頑張ろうと思った。趣味と生活は車の両輪なのである。

 

さて、感じたことを私なりに総括したい。いきなり他アーティストを引き合いに出すが、たとえばくるりのライブ会場では、メガネ率とマッシュボブ率とボーダーT率が日本の平均を著しく超えていると思う。対して、ジャニーズはファンの母数が多い上、年代や性質も多岐にわたる。当然、望むものも様々だ。ダンスとバンド、アリーナと天井席、イチゲンさんと多ステ勢、ファンサとパフォーマンス、わちゃわちゃとクール、前髪ありと前髪なし。対照的なあらゆる要望を満たすのは至難の業であると思う。だが、最大公約数的な満足を提供しながら、有象無象の意見を飛び越えた圧巻のパフォーマンスがNOROSHIであり、Black of nightであり、Tokyoholicであり、関ジャニ’sエイターテインメント総体であったと思う。

新たなファンを獲得しながら既存のファンに進化した魅力をみせ、武器を増やし、技術を磨き、基盤も固めるなど、もはやローマ五賢帝並みの偉業だろう。だが幸いにして、我々は彼らと同時代人である。私は彼らが群雄割拠のアイドル界*6を駆け回り、あらゆるファンを丸ごと引き連れて新たな道を切り開き、最大版図を描く様をこの目で見たいと思った。反撃の狼煙の後には新しい風が吹いている。もう、瞬きをする間もない気がする。


・終わりにー露骨な販促

なぐりガキBEATは1/25発売、通常版にはTokyoholicを収録。

NOROSHIも絶賛発売中であり、初回AにはMVと稀代のシャブ曲・ふわふわポムポムを収録。初回BにはBlack of nightと同MVも収録されている。もし気になった方がいればぜひ手に取っていただきたい。

*1:ラッパーの方のお名前にかけたギャグです。

*2:横山くんは大阪市此花区の出身です。

*3:関ジャニクロニクルにおけるすばるくんの持ちネタです。

*4:美容外科の広告とかけたギャグです。

*5:あくまで私の勝手な妄想で、実際の大倉くんは貴族です。

*6:他のアイドルとパイを奪い合うことを推奨する意図ではありません、念のため。