切り取ってよ、一瞬の光を

エンターテイメントの話

V6担兼NEWS担の友人とサブカルになりそこねた私の10年

親愛なる友人Sへ――

 

あなたと出会って、早いもので11年目になります。大学で同じクラスだったあなたと仲良くなり、あなたがジャニヲタであると知るのにさほど時間はかかりませんでした。2文ですでにだいたいの歳がばれてしまいましたが、あなたは中学生の頃からのV6三宅健さんファンであり、出会った頃にはすでにNEWS手越祐也さんのファンでもあったと思います。

私にとってV6は「学校へ行こう」でなじみのあるジャニーズでしたが、飛ぶ鳥を落とす勢いだった嵐に比べると、やや旬の過ぎたグループという印象でした。NEWSに至っては、山Pこと山下智久さん率いる大勢の男性たちという認識でしかありませんでした。正直なところ、ジャニーズはチャラチャラ歌い踊るイケメンの集団で、ティーンの女子がはしかのように熱を上げる対象であり、大人のジャニヲタは虚構の夢から醒めていない人種だと思っていました。大変失礼な話です。「他人のアイドルを笑うな!」と叫びながら自分をビンタしてやりたいくらいです。しかし大学生の私は、約10年後の自分が、好きなジャニーズアイドルが番組で着ていた衣装とほぼ同じくまのTシャツ*1を購入するなど、微塵も想像していませんでした。

これはジャニヲタのあなたと友達になってから、私がジャニヲタになるまでの思い出話です。長くなりますがお付き合いください。

 

あなたは私が人生で初めて出会ったガチのジャニヲタでした。同じコミュニティにジャニヲタがいなかったため、あなたはご家族やジャニヲタ友達とコンサート等に行っていたと記憶しています。ふわふわしておおらかな印象だったあなたが、何かのチケットの一般発売のために、恐ろしい集中力と指さばきで電話をかけまくる姿や、運動が苦手だというあなたが、何かのコンサート遠征のために、話しかけるのをためらうほどに新幹線ホームを全力ダッシュする姿を見て、なんだかジャニヲタはやばいなと思っていました。

ジャニヲタはやばいなエピソードの最たるものが、V6のコンサートと沖縄旅行の日程がバッティングした事件です。既に1公演は当選しているにもかかわらず、「その日V6当たったらそっち行くから」とあなたが言い放った時のショックは今でも忘れられません。私と友人は説得を試みましたが、あなたの決意は揺らぎませんでした。アイドルのコンサート>>>>>>我々の友情だったのです。結局あなたは落選して旅行に行くことになりましたが、ジャニヲタの異常な熱量と非情なリアリストぶりを垣間見た気がしました。

 

今思えば、私にも何度かジャニヲタへの分岐点がありました。その一つがドラマ、タイガー&ドラゴンです。私はセンターパートの細身な美青年だった岡田准一さんに目を奪われました。しばらくの期間、岡田くんが出ている番組は録画して見る等、彼に淡い好意を抱いていました。岡田くん、かっこいい。私の発言を受けたあなたは喜々として私を勧誘しました。しかし、私は明確な意志をもって断りました。ジャニヲタはなんだかやばいと思っていたからです。その沼の深さを本能的に察知し、脳が警鐘を鳴らしていたのかもしれません。そして私はもう一方の道を選び、同ドラマの主題歌を歌っていたクレイジーケンバンドのファンになりました。

 

山に囲まれたカルチャー不毛の地から関西に出てきた私にとって、大学の友人たちは博学で高度に文化的でした。サザンオールスターズMr.Childrenのファンだった私は、彼女らの影響を受け、いわゆるサブカルチャーに傾倒していきます。サブカルの定義については諸説あると思いますが、ややマイナーかつ知っていることにより若干の優越感にも似た自己満足を得られる趣味のジャンル及びその嗜好を指して、便宜的にサブカルという言葉を使用します。*2

私はくるり電気グルーヴを聞き、ラーメンズのライブに行き、攻殻機動隊を見て、FUDGEやダ・ヴィンチを読んでいました。好きな俳優は加瀬亮さんでした。こうして私はスーパーノヴァといえばワールズエンド、仁といえば片桐、亮といえば加瀬、草なぎといえば素子、タキといえば瀧*3といった嗜好を持つようになりました。

しかし音楽を例に出せば、NUMBERGIRLSUPERCARSAKEROCK筋肉少女帯もよく知りません。椎名林檎さんは好きですが戸川純さんは聞いていません。サウスパークは好きですがモンティ・パイソンは見ていません。たとえるなら、ジャニヲタを名乗りながら「アンダルシアに憧れて」や「愛のかたまり」を知らないといったところでしょうか。私が好きなサブカルはサブカルの中でも比較的メジャーな存在でしたが、それらに満足していたので、サブカルを体系だてて学ぶことや、未知のアーティストなどを知ることにはあまり気が進みませんでした。澁澤龍彦大塚英志を愛読し、土方巽暗黒舞踏を熱く語り、好きな映画にトレイン・スポッティングやヴァージン・スーサイズを挙げるような友人と比較すると、私はサブカルの浅瀬でチャプチャプと戯れているにすぎませんでした。

やがてサブカルに対する興味より義務感と劣等感が増大し、広く深くサブカルを知ろうとしない自分を恥じるようになります。サブカルは文化の分野ですが、面倒な自意識と親和性の高い概念でもあります。臆病な自尊心ゆえにサブカルの道に進んだ私は、尊大な羞恥心のせいでサブカルに敗北することとなりました。*4ナタリーさえチェックしていない私はサブカル女などではなく、ただの面倒な女でした。

 

面倒な女は、次第にPerfumeきゃりーぱみゅぱみゅ等、アイドル性のあるアーティストを好きになり、ももいろクローバーにたどり着きます。彼女らに心酔する一方で、ある疑念が膨らんでいきます。この「好き」はファッションではないのか?「かせきさいだぁが曲を提供してるからでんぱ組.incを聴いてみたんだけど、結構クセになるね」といったサブカルありきのアイドル好きというファッションではないのか?

私は再びアイデンティティクライシスに陥ります、永遠に出られない暗闇のラビリンス*5に迷い込んだのです。思い悩んだ結果、私が本当に好きなのはサブカルでもアイドルでもなく、クレイジーケンバンド2ちゃんねるまとめだという結論に至りました。私のメンタリティーはヨコハマのオヤジであり、ミーハーなおたくだったのです。

 

あなたとの思い出に話を戻しましょう。

就職に伴い、大学の友人たちは全国に散りました。離れてもSNS等で交流がありましたが、久しぶりに共通の友人の結婚式で再会します。あなたは顔を合わせるなり、重大な秘密を告白するような面持ちで口を開きました。

「この前、健くんと電話してん」

当時ジャニーズを騙る迷惑メールが流行していたこともあり、すぐさま「詐欺」の二文字が私と友人の頭をよぎりましたが、よくよく話を聞くと、健くんのラジオに投稿した質問が採用されたのことでした。我々は、ネタ的な面白さを感じながら、すごい!良かったね!と騒ぎました。しかし、オンエアを聞いた私は、少し違った感想を抱きます。

健くんと会話するあなたは、緊張していたのか、耳慣れた京都弁がうわずっているように思えました。そして電話の終わり際に、駆け込むように、ずっとファンであること、ライブに行くこと、これからも応援することを健くんに伝えました。そのトーンに、長年想いを寄せていた人に告白するような切実さを感じ、私は胸がいっぱいになりました。想像していた以上に、あなたにとってアイドルが大切な存在なのだと気づきました。

 

2013年7月、かの「パーナさん事件」が起こります。NEWSの野外コンサートが悪天候で中止・順延になり、多数の体調不良者と宿泊難民が出ました。真偽不明なツイートが拡散され、デマに翻弄されるジャニヲタ=短絡的で自己中心的な情報弱者というイメージは、常にハイエナのように批判の対象を求めているインターネットの格好の餌食となりました。「レイプ車がパーナさんを狙っている」等の破壊力のあるフレーズを笑って見ていた私ですが、あなたもこのコンサートに参加していたことを知ります。聡明で大人なあなたは、隣に座っていた女子高生を助けたのち、颯爽と会場を後にして飲みながらこの騒動をネットで傍観し、翌日の振替公演に参加したとのことでした。私にとってパーナさん事件は他人事でした。のちに私がファンになる関ジャニ∞も、悪天候や体調不良等のアクシデントに見舞われます。私はジャニヲタになり、喜び悲しみ受け入れて生きる*6ことを学ぶのです。

 

結婚・出産を経て、育児に疲れた私は、憂さ晴らしに純度100%の愉快さを求めはじめます。折しもデビュー10周年を迎えた関ジャニ∞をテレビで目にする機会が増え、彼らのバラエティスキルの高さと楽曲のキャッチーさなどに、だんだんと好感を抱くようになります。年末、ジャニーズカウントダウンを心待ちにしていた私は、この年に限ってテレビ放送がないことを知り、それはそれは落胆し、カウコンに参加するあなたを羨みました。しかしいざ蓋を開けてみると、実質マッチこと近藤真彦さんのソロコンというジャニーズ史に残る伝説のカウコンでした。自担の活躍を楽しみにはるばる東京まで遠征した結果、マッチソロコンで年を越したあなたの心境を思うと、胸が痛みます。

さて、育児中で可処分時間の少ない私はしばらく茶の間ファンを続けますが、ジャニーズについてつぶやくごとに、あなたから「ファンクラブへの入り方を教えようか?」「沼の底で待ってるよ」等とリプライがありました。それらがボディーブローのように効いていたのか、私はテレビでは飽き足らず、関ジャニ∞のCDやDVDを購入し、過去の作品を漁り、メンバーの個性や関係性を学習し、情報収集のためTwitterでジャニーズアカウントを作成します。さらに、岡田くんがHey!Say!JUMPの伊野尾慧さんを「発見」*7したのと時を同じくして、私はサブカルホイホイとでもいうべき伊野尾くんのスペックとビジュアルに転げ落ちていきます。タイガー&ドラゴンの時とは異なり、私は積極的にあなたに教えを乞い、ついに関ジャニ∞とHey!Say!JUMPのファンクラブに入会します。あなたと出会ってから9年が経っていました。

いま振り返ると、ジャニーズはサブリミナルのごとく生活のあちこちに潜んでいました。たまたま録画していた歌番組を再生すると、ハマる前の自担Gが出ていた。そういえばさまぁ~ずの三村さんが「キング・オブ・男!」が衝撃的だという話をしていた。何かにハマることを「沼」といいますが、これまで自分が沼の上に張った薄氷を歩いていたことに気付きます。どうしてもっと早く関心を持たなかったのかと後悔すると同時に、よくもまあ今まで落ちずに生きてこれたものだと思いました。

これを読んでいる非ジャニヲタの方も他人事ではありません。いつ、だれに、何のきっかけで足を滑らせるかわかないのです。「まさか、私が……ジャニーズなどに……」と滅ぼされる間際の魔王のようなセリフを吐きながら沼に沈んでいった人を何人も見ました。今は私を含め、みな沼の底で恍惚の表情を浮かべながらジャニーズを愛でています。はしかは、大人になってからかかる方が重症なのです。

 

2016年、ついに私はHey!Say!JUMPのコンサートに参加する権利を得ます。あなたにコンサートの心得を問うたところ、ずらりと長文で十か条の返信があり、年季の入ったジャニヲタを友に持ったことを心強く思いました。その中に、「コール&レスポンスがある歌は練習しておいた方がいい」という教えがありました。そして当日、ファンの圧倒的な若さに気後れしながらも、私は勇気を出して声を上げます。 

\ゴシゴシ私はスポンジで~す!!!!/*8

 その瞬間、自分の中で新しい扉が開いたのを感じました。日常のしがらみから解放され、魂が浄化される思いでした。それはまるで通過儀礼でした。ついに私は身も心もジャニヲタになったのです。

 

私がジャニーズの何に魅力を感じているのか考えてみました。おたくは息をするように、軽率に「尊い」と言いますが、実際にアイドルは尊いのです。外見やスキルが優れていることはもとより、ファンへの向き合い方、趣味嗜好、バックグラウンドや信条、経験に裏打ちされた自信、幾分かの自己犠牲とプロフェッショナリズム、時折見せる隙ですら、彼らを魅力的にみせます。さらに、ただでさえ魅力的な人が集まって、仲の良さや、少しの気まずさが、化学反応のようにいっそう魅力的で物語性のある関係を作っています。個の力が相乗効果で際限なく増幅して、圧倒的なキラキラの渦を生み出しているようです。そして、様々な分野に挑戦し、吸収・消化して、想像と期待を上回るアウトプットで返してくる姿や、時に理不尽な試練や困難に阻まれても、逃げずに克服する姿には胸を打たれ、自分を奮い立たせる勇気をもらえます。なにより、彼らがそのまたとない命を燃やし輝く様を、余すところなく見せてくれる存在であることが、奇跡的であり、眩しくて直視できないくらいに尊いのです。

 

また、ジャニーズはファンのスタンスが様々だと思います。デビュー組からJr.まで幅広くカバーする事務所担もいれば、デビュー前から関ジャニ∞のファンだけど他のグループはよく知らないという人もいます。疑似恋愛の対象として好きな人もいれば、音楽面が好きで楽曲の分析をしたりコピーをしたりする人もいます。そしてジャニーズの皆さんは、追いきれないほど多種多様かつ大量にメディアに露出しています。サブカルに挫折した私ですが、歳をとって「好き」のコントロールができるようになったのか、家庭や仕事でリソースが限られていることが逆に幸いしているのか、マイペースで応援できています。「好き」のあり方は自由でいいんだということを学びました。

さらに、前述のように、テレビだけでも相当な頻度で彼らを目にします。旅行だとか長期休暇だとか、相当先の大きな楽しみを生きがいに必死にウィークデイをやり過ごしていたこれまでを遠泳だとすれば、今はテレビや雑誌などの小さな楽しみを飛び石のようにポンポンと渡っていると、いつの間にか新曲の発売やコンサートといった大きなイベントに行きつくような感じがしています。ジャニヲタになって毎日が楽しいです。

 

あなたが自身のブログ*9で書かれているとおり、あなたの結婚式はジャニヲタならではの趣向が凝らしてあり、ジャニヲタ人生の集大成だったのではないかと思います。ケーキ入刀のタイミングでV6のDarlingが流れた時は、あまりの潔さに友人たちと爆笑してしまいました。ストイックに「好き」を貫いた清々しさと多幸感がありました。

時系列が前後しますが、2015年、V6は20周年イヤーであり、歌番組で彼らを目にする機会が多くありました。時を経て、岡田くんは可愛い後輩の尻を乱獲する屈強な師範になりました。不思議と健くんはビジュアル的に変わりありませんでした。そして私は驚くべきことに気付きます。うたをうたお……飛び乗ろうよハニービー……ほとんど知ってる!歌える!!大学時代、暇さえあればカラオケに通っていました。そしていつの間にかあなたが歌うV6を刷り込まれていたのでした。V6は私にとっても青春の記憶装置だったのです。

病めるときも健やかなるときも、あなたのそばにはジャニーズがいました。一方私はというと、その時々に好きだったサブカル的なものには思い出が刻み込まれているし、継続して好きなものはたくさんあります。今もSuchmosを聞きながらこれを書いていますから、持続可能な程度に、ポップでミーハーなサブカル活動を続けているといえます。しかしあなたほどに長い期間、一定の熱量を保ちながらひとつのグループを追った経験はありません。私はあなたがジャニーズと共に歩んだ半生をとても羨ましく思います。

 

随分と回り道をしましたが、私はあなたと同じジャニヲタになりました。なんの躊躇もなく好きだと公言できるものに出会えました。そして、私がジャニヲタになってコンサート参戦記を書いたことを、あなたは「こんな日がくるなんて、私はなんて幸せな世界に生まれたんだ!」と翻訳文のようにスタイリッシュに喜んでくれました。私はとても良いことをした気になって、チケット代など実質タダだったのではないかと思いました。

あなたと話したいことがたくさんあります。カラオケに行きたいし、鑑賞会もしたいし、人生ゲームもしたい。*10近々、あなたを含む大学の友人たちと久しぶりに旅行に行きますね。ジャニヲタとなった今、沖縄旅行のとき、V6のコンサートが当たっていたらよかったのにと思います。アイドルは年に数回会えるかどうかですが、友達は友達でいる限り、年齢を重ねても、環境が変わっても、どこでだって会えるのですから。

 

10年間友達でいてくれてありがとうございます。これからもよき友であり、ジャニヲタの先輩でいてください。そして願わくばこの先の10年も、あなたの人生がジャニーズの輝きと共にあらんことを祈って、筆を置きます。ありがとうございました。

*1:安田章大さんがトーキョーライブ22時で着ていたJOYRICHのくまTシャツです。

*2:以下、どの趣味も、アーティストも、そのファンも揶揄したり批判したりするつもりがないことをお断りしておきます。これは私と私の自意識の問題なのです。

*3:蛇足ですが、SupernovaはV6の楽曲、赤西仁さん、錦戸亮さん、草なぎ剛さん、タッキーこと滝沢秀明さんを想定しています。

*4:中島敦山月記」より

*5:関ジャニ∞「Black of night」より

*6:Hey!Say!JUMP「Ultra Music Power」より

*7:コロンブスによるアメリカ大陸発見に匹敵するエポックメイキングな出来事だと思っています。

*8:Hey!Say!JUMP伊野尾慧さんと八乙女光さんのユニット曲「今夜貴方を口説きます」より

*9:ジャニオタに優しい結婚式 - ゆめゆめ惑うことばかり。

*10:コマを自作し、自担だらけの人生ゲーム大会を開催された方がいました。