切り取ってよ、一瞬の光を

エンターテイメントの話

くるりライブツアー「チミの名は。」ファイナル/関ジャニ∞に歌ってほしいくるりの曲

 

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白い電車に乗っかって:前書き

ゆりかもめに揺られ、数年ぶりに訪れたダイバーシティ東京は、Diversityの名にふさわしく異国人観光客であふれており、一方で東京という名を冠しながら相変わらず地方のイオン感に満ちていた。

 

大学の友人から「岸田に似てる」と言われたことをきっかけに、くるりを聞き始めて10年ほどが経つ。「似てる」出のくるり担である。しかし彼らの楽曲のバックグラウンドや、音楽的・技術的なあれこれ、さらにパーソナルなことにはさほど詳しくない。離職率が話題になるほどにメンバーの入れ替わりが激しいバンドだが、くるりとは形而上の概念だと思っている節があるので、メンバーの変遷に一喜一憂することもなかった。ここ数年は新曲が出たことを知れば購入して聞く程度のゆるいファンであったが、2016年はくるり結成20周年のアニバーサリーイヤーであり、後述する新曲をどうしても生で聞きたくて、ツアーファイナルもといオーラスのチケットを取った。

 

はてなブログの「ジャニーズ」カテゴリに登録しながら毎度くるりの話ばかりしてしまって大変恐縮なのだが、関ジャニ∞くるりは関ジャムのセッションで共演したことであるし、「関ジャニ∞メンバーに歌ってほしいくるりの曲」について後半でつづるので、お互いなんとなく興味を持ったファン各位に読んでいただけるとありがたい。

 

強い向かい風吹くお台場で:開演までの記録

Zepp ダイバーシティ東京に併設された大型ショッピングモール・ダイバーシティ東京は、ライブまでの暇つぶしと腹ごなしに大変ありがたい存在である。広いフードコートは主にアジアからの観光客で大半の席が埋まっていた。しかし見渡すと、ぽつりぽつりと「それらしき」人が静かに食事をとっているのに気づく。あたかもスタンド使いが引かれ合うように、くるりファンはくるりファンを容易に発見することができる。一般人に擬態していても、髪型であるとか、服装であるとか、隠し切れないささやかな自己主張が目に止まるのだ。めがねに重めボブの私は、同志たちの気配を感じながら、はなまるうどんを胃に収めた。

 

しかし久しぶりのスタンディングライブに動揺した結果、早々に荷物をすべてロッカーに入れてしまい、開演まで30分間、仁王立ちする羽目になった。さらに致命的なことに、ポケットのない服を着てきてしまったため、ロッカーの鍵をもてあまし、迷った末にスカートのウエストに差すことにした。何年か前もライブハウスで同じ過ちを犯し、ブーツの中に鍵を収めたことを思い出した。なぜかライブに来る度に太もものホルスターに銃を隠す女暗殺者のようになってしまう。グッズ山盛りの袋を置いて着席できるジャニーズのコンサートのありがたみが身に沁みた。

 

話す相手もいないので、自然と周囲の会話が耳に入ってくる。

……コーラスの使い方とか○○の影響を受けてる感じだよね……△△のワンマンは二公演入った……石川さゆりって2009年と2011年に音博に出てるけどどっちの話?……

しまった!知識と経験でマウンティングしてくるタイプのサブカルに囲まれてしまった!30分の間に、フリッパーズ・ギターからSuchmosまで、一通りそれらしいアーティストの名前が出た。私は関ジャニ∞メンバーに歌ってほしいくるりの曲を妄想し、ジャニオタの鎧をまとうことでなんとか自我を保っていた。

 

ようやくくるりのメンバーがステージに姿を現す。ほっとするのもつかの間、聞き込んだ「ワンダーフォーゲル」のイントロを耳にした途端、私の中の京都の亡霊がどよめき始めた。

 

くるりとスイング・バイ:回顧と少しのライブ感想

私は東京に住んでいる。情報過多で時間の流れが速く息が詰まるような街で、何年住んでも好きになれないのだが、どうしようもなく便利である。上京してからずっと、地方出身者特有のルサンチマンと、依存と嫌悪の相反する感情がくすぶっている。居心地の悪さを感じながらも、いつの間にか東京に根を張ってしまった。

かつて私は京都の大学生だった。恐ろしく愚かで、若さと時間を贅沢に浪費していた。くるりのアルバム「アンテナ」や「NIKKI」をBGMに、京阪電車の窓から街を見下ろし、大学近くの喫茶店で友人と授業をサボり、飛び石の真ん中で泣き笑い、とにかく毎日が楽しくて目の前には世界が開けていた。実際には楽しいばかりではなかったはずなのだが、京都という街は思い出の中で都合よく美化されている。今ではあの店もなくなって友人もいなければ帰る場所もない。もうどこにもない私の京都が、くるりの曲の中にだけ生き残っている。

 

私が聞きたかった新曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」は、中盤にさらりと披露された。この曲は端的に言うとチオビタに起用されない方のくるりである。タイトルどおり異国情緒あふれる舞台設定で、現代のようでいて、終末の迫る近未来のようでもある。だが、ネガティブで退廃的な街の描写と、好きな人と上海蟹を食べる多幸感の対比が不思議と心地よい。あまりの心地よさに全身の力が抜けて、ばらばらになって霧散していきそうになる。

何より私を惹きつけたのは、次のくだりである。

 

この街はとうに終わりが見えるけど 俺は君の味方だ

 もういいよそういうの 君はもうひとりじゃないから

 

架空の主人公「俺」と特定の女性「君(あなた)」の曲として聞いていると突然、「この街はとうに終わりが見えるけど 俺は君の味方だ」「もういいよ そういうの 君はもうひとりじゃないから」で、「俺」こと岸田さんの言葉が二次元を飛び出してきて、それまで傍観者であったはずの、「君」こと私の心をわしづかみにする感覚。初めて聞いた時はあまりの不意打ちに、朝の地下鉄のホームで立ち尽くしてしまった。

ストレートなメッセージを、優しいバラードでも骨太のロックでもなく、ナンセンスな押韻と共にチャイナ調の気だるいラップに乗せているところに、円熟した大人のテクニックを感じるし、ハズシが効いていておしゃれだと思う。

ギターを置き、マイクのコードをさばきながら歌う岸田さんの姿が痺れるほどにかっこよかった。自分の置かれた状況と音楽がシンクロし、迫力の演奏と温かく芯のある歌声に胸を打たれ、思わず涙がこぼれた。

 

くるりが「君の味方だ」と歌ったのは初めてではない。2003年に発表された曲、「HOW TO GO」のなかに次の歌詞がある。

 

いつかは想像を超える日が待っているのだろう 

毎日は過ぎてく でも僕は君の味方だよ

 

時が経てば大抵のことは解決するか、風化するか、諦めがつく。だが、その事実と、どうしようもなくつらい今をどう乗り切るかというのはまた別の問題である。ロックバンドの歌う一節は、ある種宗教的な力を持って、目の前の暗闇を照らしてくれる。

たしかに想像を超える日が待っていた。広島東洋カープセ・リーグの覇者になるのも、京都に鉄道博物館ができるのも、京都でプラプラしていた田舎者の大学生が、東京に住みジャニヲタになるのも。

もう京都は私の街とはいえないし、この街も私のものにはならない。でも、探査機が惑星の重力を利用して宇宙を進むように、私は力尽きかけた時に、これらの曲から推進力を得て加速し、この街を生き抜いていくことができるのだと思った。

 

MCで印象的だったのが「自分たちの新しいアルバムを自分たちが早く聴きたい。何言ってるか意味わからんやろうけど」とベースの佐藤さんが発言したことだ。自分たちの音楽を愛し、創作意欲にあふれていることが伝わってきて、わかる!!と叫びそうになってしまった。くるりが信頼できる音楽を20年間作り続け、私たちに届けてくれることがまさに「君の味方」であることを体現しているのであると思った。

そして、オーラスWアンコで「東京」来る!?というジャニヲタ的思考を裏切るように、「Liberty&Gravity」で賑やかに軽やかに幕を閉じた。「ばらの花」も「東京」もやらない、ある意味くるりらしいツアーファイナルであった。

 

関ジャニ∞に歌ってほしいくるりの曲

ジャムセッションで披露した神曲「ばらの花」も両方のオタクとしては失神ものだったのだが、さらに欲張って、関ジャニ∞メンバー各人とグループで歌ってほしいくるりの曲について考えてみた。

 

横山裕

「ワールズエンド・スーパーノヴァ

横山くん×デジタルっぽい感じis最強。淡々とした中に熱さが込められている感じが横山くんの声に似合うと思う。「僕らいつも笑って汗まみれ どこまでもゆける」は関ジャニ∞そのものだし、「いつまでもこのままでいい それは嘘 間違ってる」がストイックで貪欲で向上心の塊のような横山くんを表している。なにより理屈は抜きにして、横山くんの「ドゥルスタンスパンパン 僕ビートマシン」が聞きたい。「ドゥ」の破裂音の感じ。

「everybody feels the same」の「大阪!神戸!京都!」という煽りを聞きたいし、弟さんの結婚式でトランペットを吹いたというエピソードから連想されるのは「ロックンロール・ハネムーン」であり、祝福と希望に満ちたこの曲を横山くんが歌うことを想像すると幸福感のあまり倒れそうになる。

 

渋谷すばる

「HOW TO GO」

前述のとおり、すばるくんに「毎日は過ぎてく でも僕は君の味方だよ」と歌われると、どんな困難でも乗り越えられる気がする。すばるくんが歌う「HOW TO GO」を凝縮して物体にしてロケットペンダントに入れて肌身離さず持ち歩き、つらいときにそっと開いて見たい。

「すけべな女の子」「モノノケ姫」などの痺れるロックも似合うし、「Morning Paper」の「世界の果て届いてる? 解散しない 世界中の夢背負う群れ」などはオタク的に激エモなので是非にと願う。あるいは、関ジャムで女性ボーカル曲を優しく歌う時のように「言葉はさんかく こころは四角」もいい。「繋いだお手々を振り払うように」と穏やかに可愛らしく歌うすばるくんと歌詞の切なさとのギャップで身もだえしたい。

なお、今回のくるりライブにおいては途中からツインドラムにギター3本、ベースにキーボードの贅沢なバンド編成で進み、やがてドラムの森さんがパーカッションになり、岸田さんがブルースハープを吹き「Ring Ring Ring!」歌い出したところで、関ジャニ∞感がカンストしたということを付言しておく。

 

村上信五

アナーキー・イン・ザ・ムジーク」

突然のアルバム曲で申し訳ないが、村上くんの関西弁のイントネーションが好きすぎるためにこの曲を推したい。 そして村上くんはテレビでのザ・大阪人のイメージと、ライブなどでのセクシーさのギャップがすごいので、「当然 滑る手は真ん中セクシーランジェリーへ 全然 皮膚感のないまま僕の呼吸はずっと乱れっぱなし」と歌って、軽率に覗き込んだ人間を深い沼に突き落としてほしい。

イメージ先行を覆すかっこよさという点では、KINGのラップとR&Bも同様である。上記の琥珀色の街、上海蟹の朝」をクールかつウェットに歌ってもらいたい。「俺は君の味方だ」はトイプーの次に可愛いまっすぐなその瞳でカメラを見つめてどうぞ。路地裏のニャンコ。

 

丸山隆平

「リバー」

くるりといえば京都、京都といえば丸ちゃん。「淀み淀んだ河のそば 不良の真似事してみたい」のように、大人と少年の間のモラトリアムでエネルギーを持て余す、冴えない大学生のイメージが良く似合う。「よくある話 恋の向こう側」の連音のような歌い方が耳に心地いい、軽快なカントリー調の名曲をぜひ丸ちゃんに。

個人的に丸ちゃんの優しさと賑やかさの間に見え隠れする闇が好きなので、狂気をはらんだ深い愛情と愛郷心を歌った「街」も捨てがたい。京都関連では「宿はなし」の文学的な香りもいい。さらには「ハム食べたい」の変態性も丸ちゃんらしい。そして「終電終わってワンシャワー 笑顔も素っぴん ハムタイム」でリア恋をこじらせて死ぬ。

 

安田章大

「尼崎の魚」

「僕の身体は余りにも小さすぎて 陸上で暮らすには困難だ」とは、尼崎出身で身長164.5cm欲しいものはエラ呼吸のヤスくんのことを歌っているとしか思えない。ギターをギャンギャンかき鳴らしながら、オス感をまき散らして歌ってほしい。私はヤスくん前髪信者だが、これに関しては金髪オールバックで、衣装とスタイリングは尼崎テイストに定評のあるテレ東さんでお願いしたい。

ヤスくんは関ジャニ∞の中では岸田さんと一番声質や歌い方が似ていると思っているので、優しいラブソング「Baby I Love You」をアコギ弾き語りで歌ってほしいし、穏やかで温かい「旅の途中」のファルセットも聞きたい。「二人で背比べした夕暮れ キスしようよ 私のことつかまえてよ 次のバス停まで歩こうよ」に表れているような、日常の中にある確かな幸せが、ヤスくんの人柄によく似合う。

 

錦戸亮

「ハイウェイ」

どちらかといえば亮ちゃんは不言実行の人だろうが、「何かでっかい事してやろう きっとでっかい事してやろう」の野心や、「僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって」からの「僕には旅に出る理由なんて何ひとつない」という、本当はまっすぐなのにあまのじゃくな感じが彼らしいと思う。これもアコギでぜひに。同様に「トレイン・ロック・フェスティバル」の「気に食わん俺は約束は破る そんな寂しいこと言わないで」のひねくれた可愛さもいい。

亮ちゃんが作詞作曲した関ジャニ∞「Tokyoholic」は、微量の迷いと哀愁をはらんだ、赤裸々で力強い反骨精神の歌だと思う。鬱屈した思いを抱えながら東京で生きていく人たちを、背中を殴りつけるように叱咤激励してくれる。曲調は全く違うが、歌い手のパーソナルな姿を投影しながら、聞き手が共感できる普遍性があるという点で、「東京」に通じるものがある。「そんな上から見んなやこっちも必死なんじゃ」と歌う人が「君が素敵だった事 ちょっと思い出してみようかな」と女々しくこぼすことを想像すると母性が爆発する。

 

大倉忠義

「春風」

多幸感あふれるゆったりとして美しいこの曲を、大倉くんの魅力的な低音で聞きたい。「ここで涙が出ないのも幸せのひとつなんです」という感性が、上手く説明できないが大倉くんっぽいと思う。同じく多幸感シリーズで「BIRTHDAY」もいい。「少し濃いめの珈琲たてたら 寝ぼけた夢も君の匂いになる」という等身大の幸せが柔らかい声に合うと思うし、「日なたの若葉薫る風」が吹く季節に生まれた大倉くんにふさわしい曲。

キャンジャニ∞の中でも一際キャラ立ちしていた倉子ちゃんに歌ってほしいのが「スロウダンス」。正直この曲は男女の視点が入り組んでいる気がして意味がよく理解できないのだが、倉子ちゃんには「もっとつれないこと言って」ほしいし、「一度だけ抱いてほしいの」と本心か演技かわからない健気な誘惑をしてほしい。

 

関ジャニ∞

「ロックンロール」

どこを抜き出しても力強く儚く美しい、別れと再出発の歌を、バンドで聞きたい。「8の字描くように無限のビート グライダー飛ぶよ」は書下ろしかと思うほどにそのまんまだし、「さよなら また明日 言わなきゃいけないな」という幕引きも、近くて遠い存在であるアイドルにふさわしい。

 

くるりの曲を聞きたくなった方へ

くるりの20回転」

「聞き流すだけでくるりがわかる」と岸田さん自らが評した、デビュー曲「東京」から最新曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」までのシングル曲を網羅したベストアルバム。iTunesにもあり。 

 

 「琥珀色の街、上海蟹の朝」YouTube公式チャンネルにMVのフルバージョンも公開されている。

その他、4月16日(金)までGYAO! MUSIC LIVEで、『「くるりの20回転」リリース記念ツアー「チミの名は。」』厳選集としてオーラスの映像が一部(といっても13曲も)配信されているので、ぜひ。残念ながら「~上海蟹」の映像はないが、元京都の大学生たちをノスタルジーで皆殺しにする「京都の大学生」、前述の「HOW TO GO」、圧巻の演奏だった「虹」、関ジャニ∞感がカンストした「Ring Ring Ring!」が見れる。