切り取ってよ、一瞬の光を

エンターテイメントの話

アイドル的な、あまりにアイドル的な、渋谷すばるさんのこと

渋谷すばるさん36歳のお誕生日、関ジャニ∞デビュー14周年、おめでとうございます。

最近の雑誌で読んだすばるくんのアイドルに関する発言と、彼が作った「コーヒーブレイク」に心を打たれたので、私が関ジャニ∞のファンになる前のすばるくんのイメージと、今のすばるくんに対する思いを書いてみたい。

 

  

 そーでもない第一印象

関ジャニ∞にいるビブラートのすごい人」という漠然とした認識が、「坊主にヒゲの渋谷すばる」と一致したのは、2014年夏のLIVE MONSTERだったと思う。ちょうど10周年の露出ラッシュであり、テレビで関ジャニ∞を目にすることが増え、なんとなく好感を抱いていたところだった。しかし当時は、すばるくんのワイルドな外見と眉間にしわを寄せた表情が怖かった。ギラギラしていて、世間の関ジャニ∞に対するお笑いイメージに反抗するような、「俺は歌だけでええねん」と言わんばかりの殺気を放っているような気がした(※個人の感想です)。歌が上手い、でも歌なら歌手やバンドでやってもいいのに、なんでこの人はジャニーズをやっているのかな……と思っていた。

 

しばらくして、よりシャープな坊主頭でソロ活動をするすばるくんを目にする。相変わらず歌が上手い。かっこいいが少し怖い。この頃、すばるくんの「関ジャニ∞ってアイドルやってます」という宣言を聞いたように記憶している。今思えば、関ジャニ∞というホームあってのソロであり、アイドルファン以外を関ジャニ∞に誘い込むきっかけになるように、という意図だったのだろう。だが、「リアルを伝えるアイドルがいてもいいと思う」発言とあいまって、これはアイドルをナメている人たちへの宣戦布告であり、この人は既存のアイドルの概念を壊したがっているアウトローなのだなという印象を受けた(※個人の感想です)。

 

しかし、お気づきのように、なんだかんだですばるくんの露出と発言を追っているあたり、この時点で関ジャニ∞がかなり気になっていた。そしてクロニクルで彼らの面白さに気付き、私かなり関ジャニ∞が好きかもしれない……と思っていたところで、決定打となったのが関ジャムである。ブラジャーを抱えながら、ゴールデンボンバーなどのみなさんと「女々しくて」を歌うすばるくんを見て、雷に打たれたように「買う!関ジャニ∞のDVD買う!!」と決心する。よりによってなぜこの曲だったのかわからないが、カメラに噛みつくように歌うすばるくんには、それまでのイメージをねじ伏せて、「好き!!」に針が振り切れるような、迫力とかっこよさがあった。

 

そして私は沼に転げ落ち、すばるくんに抱いていたイメージは粉々にぶち壊されるのである。

 

そんなイメージじゃないけどな

すばるくんは天才的に面白い。関ジャニ∞のお笑い担当は、横山くん、村上くん、丸山くんなのかな~と思っていた私は浅はかだった(ちなみにイケメン担当だと思っていた大倉くんのお笑いセンスにも度肝を抜かれた。)。

 

すばるくんは言葉の選び方や間の取り方が上手く、すべり知らずである。巧妙な切り返しができる瞬発力があるし、話の緩急の付け方が上手くてエピソードトークも素晴らしい。ギリギリなのに決してテレビ的なアウトのラインを超えないチョイスで、下ネタも不快にさせない師匠の技量がある。モノボケのクオリティもクロニクルで証明済みである。そして関西弁特有の、言い方で笑いにもっていく力技もしれっとやってのける。

関西出身の人たちは、半ドンの土曜に吉本新喜劇を見ながらお好み焼きを食べてお笑いのセオリーを学ぶという、英才教育を受けてきた人たちであるが、それにしてもすばるくんのお笑いセンスは突出している。発言のテンポやタイミング、ニュアンスが絶妙で、モノマネも得意であるあたり、彼の面白さは音楽センスの賜物ではないかと思う。

さらに、素人の方に対しては、偉人の末裔おじさんに鋭くつっこむ時もあれば、バンドファンの女の子をニコニコしながら「ええキャラやわ~」と評したりする。相手に愛と関心をもって、誰もサゲない笑いができる。ダイバーシティ時代のバラエティアイドルであると思う。 

 

すばるくんはメンバーが大好きである。一匹狼タイプなのかと思っていたのに、たまに驚くほどにストレートにメンバー愛を表現する。印象的だったのは、男気対決のユニット分けである。企画者であるすばるくんが3:3に分かれたユニットのどちらに加入するかという場面で、当然に選ぶ権利を行使するのかと思いきや、彼は「選ばれへん、みんな好きやもん……」と弱々しくごねるのである。初めて見たときは、長髪にヒゲ、素肌に革ジャンという世紀末な風貌と、発言の可愛さの激しいギャップに、気圧の谷が発生して大気が不安定になったような気がした。

 

また、「コーヒーブレイク」にもメンバー愛が表れている。この曲は、CDの発売前にスバラジで一部が解禁されている。恋人への想いを歌ったほのぼの日常系リア恋ソング?いや、コーヒーを恋人にたとえている?とにかくCDが待ち遠しい!とタイムラインが沸き立っていた。

そしてCDを購入し、歌詞と「作詞作曲 渋谷すばる」というクレジットを目にして期待が高まったところで、いざフルで聴くと「コーヒーが飲めない錦戸くんをコーヒー大好きおじさん6人が取り囲む歌」であることが判明する。まるで叙述トリックだった。すばるくんの音楽・お笑いセンスがいかんなく発揮されていて、巧妙な演出と、大人のユーモアに感服する思いだった。丸山くん作の「ふわふわポムポム」に並ぶようなクセになるサウンドで、リア恋ソングに夢を見たおたくたちは一転、カフェイン中毒者のごとく繰り返しこの曲を摂取したことと思う。

 

メンバー愛の話に戻ると、すばるくんが、錦戸くん主演ドラマ主題歌のカップリング曲として制作したというのがグッとくる。あいつだけコーヒー飲めへんぞ!歌にしたろ!という発想が、もう、めちゃくちゃに可愛い。そもそもコーヒーが飲めない錦戸くんが可愛い。すばるくんのデモ音源を聞いたときの錦戸くん(強火すばる担)やメンバーのリアクションやレコーディング風景をミセテクレ。ハァ〜〜可愛い。しかしそうやってニヤニヤしながら聴いていたはずが、だんだんと、この先もずっと一緒に仲良くふざけながら楽しくやってほしい、と重いことを考え始めるのがおたくの性である。(ずっと一緒……ずっと一緒……)

 

すばるくんの歌はすごい。単純に「上手い」という言葉だけでは、すばるくんの歌の魅力は表しきれない。関ジャムのエグゼクティブプロデューサーである山本たかおさんのすばるくん評を読んで、まさにその通りであると思った。

「音域が広いとかピッチが狂わないとか、もっとそういうもの以前の、心震わす魂、存在感、声、ですよね。それがライブステージでは何倍も大きく見えて、圧倒的な存在感を見せる」*1

さらに、すばるくんの歌の魅力を表現する方法を探して本を読んでいたところ、次の記述に行きついた。

「音楽は、生きることに伴う苦悩も含めて『生』を肯定して励ますものであり、他の造形芸術と異なり、形を介さず世界の本質(『生』への意志)を直接心臓に叩き込むことができる唯一の芸術」*2

見つけた時には、興奮のあまり「すばるくんのことやんけ!!」と叫んでKindleを叩き割るところだった。自作曲「生きる」で、「何もなくたっていいから 誰でもない あなたを生きて」と歌うすばるくんが、音楽の本質を体現していることに気付かされた。

すばるくんは、華奢な体で、女児のような尻と脚で、真正面から音楽と受け手に向き合って、混沌の中からエネルギーの塊を取り出し、増幅させ、全身から放つように歌う。放たれた歌声は空気を震わせながら、矢のごとく降り注いで、聴く人間の心臓を突き刺すような感じがする。唯一無二の歌声、天性の才能、音楽の神様に愛された存在。というか、すばるくん自身がほとんど神である。

 

これからも段々君が素晴らしくなる

そんな魅力あふれるすばるくんだが、2016年から2017年にかけて、さらに変わってきた気がする。なんというか、野生的な感じが和らいで、マイルドになったような、若返ったような、すっきりと解脱したような。いつ変化したのかはよくわからない。あるいは、私が関ジャニ∞のファンになって外から関ジャニ∞見れなくなったからからそう感じるだけであって、すばるくんの中では何も変わってないのかもしれない。どちらにしても、私にとってはどうでもいいことだった。重要なのは、今のすばるくんが、あまりにアイドル的な存在であるという事実なのだ(思わず村上春樹調になってしまった。)。

 

すばるくんは「ダンス居残り組」であったはずなのに、「Black of Night」では、キレキレに踊っていることに驚いた。ジャムコンオーラスでは、Jr.かと思うほどの全力しゃかりきダンスを披露していたとの目撃談があった。

さらに、2016年夏頃、髪を切ったあたりから、ビジュアルに関してもパワーアップしたような気がする。前髪重めで襟足すっきりの髪型は、頭の丸みと目力が強調されていて実に素晴らしい。重力を受け入れながら、年齢重ねることを強みに変えて、元々の素材を活かした強い強いビジュアルに仕上げてきている。

メンチは切るけれど、正統派アイドル的なカメラアピールを避けてきたようにみえたすばるくんだが、NOROSHI以降、絶妙な角度でキメ顔を披露し、おたくを困惑と歓喜の渦に突き落とす。エイタメコンにおいては、角度+流し目+ウィンクの三位一体攻撃でドームの女を絶叫させた実績がある。

一方で、幼稚園児のようなピカピカの可愛さを持ち合わせている。一般的な35歳男性には到底真似できない無邪気なダブルピース姿は、思わず「すばちゃん」と呼びたくなるほどの可愛さである。夜10時を過ぎると眠たくなり、ちっちゃい声で「忙しいねん……」とつぶやくおじいちゃんのような一面は、ひたすらに愛おしく、健康で長生きしてほしいと願わずにはいられない。

また、ファンを楽しませたい、こんなん見たいんちゃうかな?というエンターテイナーの精神は、特典映像「7人だけの新年会」の企画や、三馬鹿*3ユニット曲の「Answer」、前述の「コーヒーブレイク」に顕著である。

 

すばるくんは間違いなく関ジャニ∞の音楽を牽引する存在だが、彼だけが突出しているような感じはしない。完全に感覚の話になってしまうが、今のすばるくんの歌は、関ジャニ∞と調和している気がする。全員が音を楽しんでいるようで、7人が奏でる音楽が重なり合って、総体としてパワーを持っているような感じがする。 

 

音楽ファンで埋め尽くされたメトロックにおいて、すばるくんは「関ジャニ∞ってアイドルやってます」と言った。ソロの時と同じ言葉でも、受ける印象がかなり違う。「何をやっても、その道1本でやってる人にはかなわない」*4と言いながら、アイドルであることを免罪符にするのではない。

「アイドルって、そこに浸かっていようと思ったらそんな楽なことないと思うんです。抜け出して一個上に行こうと思ったら、ちょっとしんどいけど、それをやったら最強やと思うんですよね。誰もかなわへんと思う、絶対に」*5

という発言から感じるのは、アイドルを引き受けた覚悟だ。歌も、バンドも、ダンスも、バラエティも、芝居も、全部やる。かっこよさも可愛さも自覚して、武器にする。もはや全方位死角なしアイドルである。

それでいて、まだどこか余裕があるようで、とても自然体でいるように見える。すばるくんは、ほぼ神様だが、畏怖の対象である偉大な神ではなく、みんなに愛される身近な神様ではないかと思う。なんとなく、「小僧の神様」という言葉が似合う。*6

 

並ならぬ涙の賜物

そして、アイドル「なのに」ではなく、アイドルだからこそできることがある。

「売れない時代からずっと、うれしいことも悔しいこともすべて共有してきているから、メンバーが今どんな気持ちか音を聞けばわかる。それは、バンドマンや音楽をやっている人たちには、絶対に出せないグルーヴやと思う。関ジャニ∞の楽曲が面白いのって、そこじゃないかな」*7

20年以上やっているバンドはたくさんいるが、20年以上兄弟や家族のように苦楽を共にし、ダンスもバラエティも一緒にやって、全員がボーカルをとる、自分たちの見せ方を知っている、こんなに顔面偏差値の高いバンドは他にない。

メトロックで丸山くんがベースプレイのタイミングを間違えた際、大倉くんと安田くんはさも予定通りかのようにセッションに加わった。錦戸くんは(苦手なはずの)トークでフォローし、すばるくんは「面白いから後でもっかい同じ事やれ」とアドバイスして、ハプニングを笑いと盛り上がりに変えた。この瞬時の判断と、互いに補うあう感じが、彼らのグルーヴの表れではないかと思う。そして彼らの絆と、物語性の上に乗る音楽は、ファン以外も魅了しはじめている。それでいて、音楽は彼らの武器のひとつに過ぎないのである。

 

私はすばるくんが「チョンッチョンに尖っていた(本人談)」頃や、Jr.時代から組んでいた関ジャニ∞とは別のバンドのことや、危うさをはらんだ美しさとカリスマ性で人を惹きつけていた頃を知らない。紆余曲折を経て、それでもアイドルでいてくれるのが、本当にありがたいと思う。大人で、自然体で、アイドルとして高みを目指す今のすばるくんがとても好きだ。

 

すばるくんは天才だと思う。神様だと思う。それでいてすばるくんは、電動自転車でふらりと新宿に行く身近さ、しゃがんで子どもの目線に合わせて優しく語り掛ける父性、長年の知り合いかのように自然におじいちゃんに絡む人懐っこさを兼ね備えている。ここで思い出すのは、安田くんが雑誌で語っていたアイドル論である。

「夢を見てもらうべき時はスター性を出し、そうでない時は等身大で居る。アイドルの真髄は、見る側の欲望に対する順応性に長けていること」 *8

アイドルなのにアウトロー感にあふれていたすばるくんは、誰よりもアイドルなのだった。

 

歌番組でも、雑誌でも、ネットでも、関ジャニ∞はどこを目指しているのか?彼らにとってバンドはどのような位置づけなのか?という問いをたくさん目にした。私も分析・考察したがるタイプのおたくである。しかし、答えはとてもわかりやすい形で、以前からもう何度も見ていたような気がする。私があれこれと考えを巡らせた結果、思い出したのは、「ジャニーズ・エンターテイメント」と挑発的につぶやく、カメラ目線のイケメンすばるくんなのである。

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*1:「別冊+act.」 Vol.24より。

*2:竹田青嗣ニーチェ入門」より、抜粋しつつ私がニュアンスでまとめている。

*3:横山くん、すばるくん、村上くんの同い年トリオを指す言葉。とにかく尊い

*4:ジャムコンパンフレットより。

*5:「MUSIC MAGAZINE」2017年9月号より。

*6:志賀直哉の小説は「小僧の姿をした神様」の意ではないけど。

*7:ジャムコンパンフレットより。

*8:「TV GUIDE Alpha Episode E」より。