切り取ってよ、一瞬の光を

エンターテイメントの話

ポプステのための短い文章

渋谷で卓球をしたことがある。大人になってから知り合った友人4人で「学生時代に運動ができなかったせいで性格に歪みが生じた気がする」という話で意気投合し、できなかった同士で運動に挑戦してみることにしたんだと思う。東京に住んでいながら、若者が集まる渋谷はすこし怖くて、ビビりながら街を歩いた。卓球はやっぱり下手だったけど、気負わずにできて楽しかった。わるくないじゃんと思った。もう6年くらい前になる。

 

Sexy Zoneのアルバム「POP × STEP !?」がとてもいい。2020年にSexy Zoneが東京から発信するポップソングというコンセプトで、菊池風磨くんがSexy Zoneにはまりそうなテイストのアーティストを探して提案するなどしたという。おしゃれで洗練されていて、ポップでキャッチ―で聴きやすくて、アートワークもカラフルで可愛い。ほんともう最高。音楽面でどこがどういいのかは詳しい方が書いてくださっていると思うので、タイトルの「STEP」に「Sexy Zoneが Tokyoから送る EPisode」という意味が込められていることにちなみ、私は自分の東京のエピソードを書く。

 

東京で働き始めた頃は忙しかった。仕事の辞めたさがピークに達して、武道館でくるりの「東京」を聴いて号泣したこともある。私はそんなに仕事ができる方ではないので、とにかく周りの人が余計なストレスなく働けるように、なるべく優しく親切にしていたら、転職する後輩に「いつも優しく丁寧に教えてくれて、たくさん助けてくれてありがとうございました。この部の良心だと思っています」と言われた。後輩は辞めちゃうけど、私も仕事は全然すきじゃなかったけど、その言葉で、武道館で泣いていた私が報われた気がした。

なんだかんだで今も同じところで働いているものの、職場は確実にその当時より良くなってきていて、長時間労働も、無理な営業も、意味のない面倒な規則もかなり減ったし、私も仕事で抑えるポイントが分かって、自分の得意なことができて、まあまあ良いかんじに働けるようになった。

 

自分はだんだん良くなってきていると思っているけど、当然、いつもちゃんとできているわけではない。家で子どもに怒りすぎてしまって自己嫌悪におちいることはしばしばある。ある夜寝る前に、怒りすぎちゃってごめんね、と子どもに謝ると「そういう時もあると思うから僕はへいきだよ。でももう少し優しく言ってほしいな」と言われた。めっちゃ寛容。優しい。

そんな子どもも機嫌が悪い時があって、寝る前に「ゲームする時間がちょっとしかなかった。きょう何も楽しいことなかった」とぶつくさぼやいていた。もう遅い時間だったけど、このまま寝かすのも良くないなと思い「楽しかったことを思い出してみようよ、一緒にぬりえをしたの楽しかったよね。他にある?」と問いかけると、子どもは少し考えて「いちごがおいしかった。もう少しゲームができたら良かったな。明日やろ」と言って、しばらくして眠りについた。私もがんばるから、いい感じに育ってほしい。

 

 

先日、ジャニーズ関連で知り合った年下の女の子と渋谷で遊んだ。彼女は違う県に住んでいて、そのときは仕事で東京に来ていた。アイランドストアでジャニーズの写真を買い、好きなジャニーズのことをしこたま話した。彼女がファンレターを書くのに付き合って、カフェでキャッキャしながら一緒に考えて書いて、ジャニーズファミリークラブのポストに投函した。定期的に書きたいねと話して、ロフトで可愛くてさわやかなレターセットを買った。

アルバムの発売直前なのに、渋谷のスクランブル交差点にあった「POP × STEP !?」の大きな看板はあいにく別のアーティストに代わっていたけど、アルバム楽しみ、コンサート初日に福井で会いましょう!という話をして別れた。私は、30歳を過ぎてからこんな遊び方ができるとは思っていなかったな、最高、と思いながら帰った。

 

とりとめのない東京のエピソードだが、なんとなくセクシーの精神を感じる話を選んでみた。セクシーの精神とは、優しく誠実であること、可愛く楽しくあること、好きなものを大切にすること、ちょっとずつ良くしていこうと努力すること、自分も相手も受け入れて愛すること、などだと思っている。「POP × STEP !?」はポップを基調にバラエティに富んだ曲が揃っていて、そして曲調や歌詞の随所にセクシーの精神が宿っている。私はそこが特に好きだ。

 

 

いやなことばかりだったなと思う日、寝る前に聴くと、いやな気持ちをチャラにして、いい気分で締めくくれる曲が揃っている。通勤途中に聴いて気分を上げたり、気持ちよく晴れた休日の午前中に洗濯物を干しながら聴いたり、どうしようもなく悲しくてやりきれなくて自分が嫌になってしまった時に聴いて受け止めてもらったり、余裕のない時でもひといきついて、優しくなれるような音楽。

手の届く範囲はどうにかできるように、ちょっとずつがんばっていい方向にむかって、自分にも相手にも優しく誠実に、仲良く楽しく機嫌よくやっていきたくなる、Sexy Zoneと一緒に。私にとって「POP × STEP !?」はそういうアルバム。2020年、これから東京の思い出に「POP × STEP !?」が加わると思うと、本当にワクワクする。